入場料を20倍にして、注意書きを20分の1にしたらいいのに……と思ってしまった、「重要文化財 旧朝倉家住宅」のこと。
観光レビューではありません、「公共の美意識」と「値付け」のお話です。
注意書きだらけの重要文化財「旧朝倉家住宅」
恵比寿から代官山・中目黒あたりをぶらぶらしているときに、Google マップでたまたまみつけた「旧朝倉家住宅」。
旧朝倉家住宅は、大正期の立派な民家で、重要文化財に指定されている歴史的建造物。東京都心では大変貴重な関東大震災以前の住宅でありながら、建物内も一般公開している。
大正ロマン〜〜〜!って感じの、ほんとうにすてきな場所。代官山とは思えない静けさも、特別感がある。

立派で、大事にされていて、すばらしい施設であるからこそ、これなんとかならなかったの……?と思ってしまったことがある。
それは、この、注意書きの量……!






いくらなんでも多すぎる。
誇張ではなく、視界に注意書きが入らないタイミングがないんじゃないかってくらい、あちこちに注意、注意、注意。



こんなに立派な建物に、こんな注意書きを掲示するってどういう美意識……?
①貴重だからという理由は、わかる
旧朝倉家住宅が、貴重な施設であることは、ふらっと行ったわたしにもよくわかった。
お手洗いのガラスの「結霜ガラス」から、お庭の緑がふわっとみえてすごくきれいだったし、

大正〜昭和のレトロガラス。職人さんが手作りするから、一点一点柄が違う。
違い棚があるお座敷の空気も、すごかった!

貴重だから保護をする必要がある、という考えは、よくわかる。
でも、貴重=注意書きが必要、は短絡的すぎる。だって、美術館の作品のひとつひとつに「作品に触れないでください」って書く?しかも、作品の真ん前にその注意書きを置く……?
②海外の方が多いからという理由は、わかる
旧朝倉家住宅の来訪者は、半分以上が海外の方だった。
東京の注意書きは、年々確実に増えている。特に海外の方が多い観光エリアは、いろんな感覚・常識を持った人が集まるから、トラブルが起きるたびに、こまか〜〜〜く言語化するようになっていく。
「飲み物の持ち込み禁止」「一人一品の注文をお願いします」「床に座らないでください」。こんな注意書きをみたときに「え、そんなことする人いるのか」と驚いたけれど、自分だって海外に行ったときに「え、そうなんだ、ダメなんだ」と逆に驚くことがたくさんあった。「トイレットペーパーを流さないでください」「電車内では水も禁止です」「マンゴスチンのホテル持ち込み禁止(皮の赤い成分がシーツにつくと落ちないらしい)」とか。自分が異国人になったとき、注意書きはありがたかった。
だから、海外の方が多い場所で、注意書きが必要になるのも、よくわかる。
でも、ほんとうに必要な注意書きってそんなに多い?はじめに全体のスタンスを伝える最低限の注意書き(触れないでください的な)と、文化的な注意事項だけでも成立するんじゃない?
文化的な注意事項っていうのは、たとえば「靴を脱いでください」とか「床の間に入らないで」とかそういう話。


こんなに注意事項があったら、ほんとうに大事な注意事項が目に入らなくて、逆にトラブルが起きる気さえしてしまう。
③開かれた重要文化財である価値も、わかる
旧朝倉家住宅は、開けた文化財だな、と思った。
予約不要で、入場料は100円(!)。靴下を履いていれば誰でもOK。ふらっと気軽に出会える機会ってありがたい。
実際に来訪者の比率の体感は、
日本の建築物に興味があって来ました!といった雰囲気の方が、5〜6割。
「映えスポット」として、自身が入り込んだ写真を撮りにきた感じの方が2〜3割。
よくわからないけど歩いてたらおもしろそうだったのでふらっと、という感じの方が2〜3割。(私含む)
安いから、気軽に来る。気軽に来るから、価値が正しく伝わらない。価値が正しく伝わらないから、トラブルが起きる。……こういう流れも、よくわかる。
わかる、わかるけど……
たくさんの人に見てもらいたいのは、文化財なの?注意書きなの?せっかく写真もOKなのに、この注意書きモリモリの写真が世界中に拡散されるのは名誉なことなの?
結論、値付けが間違っているのでは?
ほんとうにこのレベルの注意書きの量が必要なのだとしたら、入場料が間違っているのだと思う。残念ながら、入場料100円という値段のせいで、価値が正しく伝わっていないのだと思う。
注意書きを増やす前に、やるべきことは、値上げなのでは?
たとえば、入場料を20倍の2000円にして注意書きを20分の1にするのはどうだろう。お金を払うことによって価値があるものとして捉えてもらえるし、注意書きに視界が疲れずじっくりと鑑賞ができる。
ふらっと来ても、特別な場所に入るときに300〜500円を払うことに抵抗はないでしょう。でも、ふらっとくる人が問題を起こすというのなら、この価格帯はやめてしまったらいい。
興味があってくる方は、1000〜2000円でも安いと感じると思う。(写真も撮らせてくれるのだし)
海外からの旅行客の方だったら、もっと、3000〜5000円でガイドつき!とかでも、全然高くないと思う。何十万円もかけて日本に来ているのだから。
安価で開けた場であることが必要なのであれば、通常は2000円で、年に数回とか100円の日を作ればいい。100円の日に来訪者が集中してしまう問題には、スタッフを増やしたり、人数限定の先着制にしたり、いくらでもやり方はある。
価格ではないことで解決する方法だってある。
初めてくる人には注意事項のビデオタイムを設けてから見学してもらうとか、注意事項をまとめた紙を読んでもらってチェックなりサインをもらうとか(ルールを増やすのは好きじゃないけど注意書きよりはだいぶマシ)。
重要文化財というものにはいろいろなルールがあって、制約もあって、わたしが好き勝手言ったような自由な運用はできないのかもしれない。
それでも、どうしても必要という結論になった注意書きだけに精鋭されているようには見えないし、注意書きのデザインが試行錯誤の結果つくられたものには思えない。
ほんとうに素敵な施設だったから(ちゃっかり今月2回行った笑)、単純にもったいない。
注意書きよりも、ルールが先!ルールよりも、工夫が先!……で、あってほしい。そう思うのは、性善説を信じすぎなのだろうか。

