鹿児島県トカラ列島の悪石島で地震が頻発しているという。
行ったこともないのに、ずっと耳に残っていた名前だ。「悪石島」。なんとも不穏で、忘れがたい。
直感的に「悪口じゃん!」と思ってしまうような名前。
どうして、悪石島という名前なのだろう?
Wikipediaによると、
- 島のあちこちに石があり、崖から落ちてきそうだから
- 平家の落人が、追手を遠ざけるためにあえて悪い名をつけた
……といった説あるらしい。
後者は、子供にわざと悪い名前をつけて悪霊を遠ざけようとした「辟邪名」に近い考え方なのだろう。
いずれにせよ気になるのは、誰が名付けたのか、という点だ。
きっと住んでいた人たち自身がつけた名前ではないと思う。石だらけの島という表現がしたかったとしても、自分の住む島のことを「悪い石の島」とは名付けないはずだ。もっとこう、「多石島」とか「石ノ島」とか、そういう感じの名前にすると思う。
悪石島の“外の人” が地図を指さして名づける様子が浮かぶ。島の石を資源として思うように使えなかった人とか、石で痛い目に遭ってちょっと恨みがある人とか。「ああもう腹立つ!あの悪石島!」みたいな。(やっぱり悪口だったのかな……?)
もう一つは、先人が知恵として地名に想いを込めたパターン。「さんずい」のつく地域は、過去に水害があったサイン、みたいなやつ。最近の悪石島の地震のニュースを見ていると、人々に近づかないように名付けられたのかもしれないとも感じる。鬼怒川という名前は川の氾濫の警告でもある、という説もあるように、悪石島も何かが起きる場所だから人が近づかないようにと、誰かが名付けた可能性も感じてしまう。
外からの視点を感じる名前は、悪石島だけではない。
北区、南区、みたいな地名も「中央区」からの位置関係だし、〇〇ニュータウンや〇〇新都心といった地名も元にあった街を基として名付けられる。
苗字にも視点が埋め込まれているものがある。
例えば、上畑さん、中畑さん、下畑さんなど位置関係がある名前も、自ら名乗り出したものではなく、地図を見て与えられた名前なのだと想像する。
奥山さん、奥田さん、前山さん、前田さん。どこからの“奥”で、どこからの“前”か。見えない中央があって、そこからの地図がひそかに存在している。
名前に埋め込まれた視点は地図であり、力であり、まなざしの痕跡でもある。名前に埋め込まれた視点はおもしろく、ちょっと怖い。
わたしたちは、誰かの地図の中で、いつの間にか名づけられていることがあるらしい。
最近の東京は暑すぎて、どこかの国の人に「イーストホットヘル」とか「クレイジーホットシティ」とか名付けられている気がする。
いつか一度は行ってみたい悪石島。なぜか気になる悪石島。穏やかな日常が、早く戻ってきますように。