「粥」とは何か。書籍やネット上でさまざまな定義があります。
「〇〇」とは何かを調べるなら、定番『広辞苑』!
ただ最新版を引くだけだとつまらないので、『広辞苑』の初版から最新の第7版まで7冊の広辞苑を引いて、約70年の「かゆ【粥】」定義の変化を調べてみました!
「粥」はごはんも含む広い言葉だった
「粥」とは何か。
2018年に出版された最新の広辞苑第7版では、「粥」は以下のように定義されています。
かゆ【粥】
広辞苑 第7版 (2018年1月12日第7版1刷)より
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。固粥と汁粥の総称。特に、汁粥。かい。<新撰字鏡十二>
なるほど〜、「粥」とは水を多くして米を柔らかく炊いたもの。
世界のおかゆを見回してみると、お米以外の穀物のおかゆも多いけれど、日本語で扱われる「粥」といえばお米が基本ですもんね。この定義は多くの方が納得しそう。
ちなみに「<新撰字鏡十二>」という記述は、「12巻バージョンの『新撰字鏡』から引っ張ってきた意味ですよ」ということ。『新撰字鏡』は平安時代に編纂された現存する日本最古の漢和辞典。広辞苑を引いたときに出てくる「<>」の部分は定義の”元ネタ”の紹介です。
あれ?と思ったのが後半。
かゆ【粥】
広辞苑 第7版 (2018年1月12日第7版1刷)より
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。固粥と汁粥の総称。特に、汁粥。かい。<新撰字鏡十二>
「固粥と汁粥の総称」?
固粥、汁粥、それぞれの語も引いてみると……
かたがゆ【固粥】
固く煮た粥。今の普通の飯。かたかゆ。<和名抄十六> ⇔汁粥
しるかゆ【汁粥】(普通の飯を「かたがゆ(固粥)」と言ったのに対して)かゆのこと。
広辞苑 第7版 (2018年1月12日第7版1刷)より
なるほど!今のごはんは「固粥」、現在のおかゆのことを「汁粥」。
まとめると……
今のごはんを「固粥」、現在のおかゆのことを「汁粥」といい、「粥」とは固粥と汁粥の総称である。
「粥」がごはんを含む言葉だったなんて驚きです。
広辞苑からたどる「粥」の歴史
「粥」は水を多くして米を柔らかく炊いたもので、「粥」は固粥と汁粥の総称、という定義は、ずっと同じだったのでしょうか?
昭和30年、1955年に出版された「広辞苑第1版」から、定義をさかのぼってみます。
広辞苑第1版(1955年)の「かゆ【粥】」の定義
かゆ【粥】
広辞苑 第1版(昭和30年5月25日第1版、昭和38年1月15日第1版11刷)より
米を汁を多くして柔らかにたいたもの。
かたかゆ【固粥】
固く煮た粥。今の飯。今の粥を汁粥
しるかゆ【汁粥】
粥。
おお〜〜〜〜シンプル!記述がこざっぱりしているだけで、定義は現在とほぼ同じですね。
「かたがゆ」ではなくて「かたかゆ」なのが興味深いです。
ちなみに1955年は終戦から10年。1953年にテレビ放送開始され、電気洗濯機・電気冷蔵庫・テレビが「三種の神器」と呼ばれ、「もはや戦後ではない」と掲げられていた時代です。
広辞苑第2版(1969年)の「かゆ【粥】」の定義
続いて、第1版の14年後、昭和44年1969年に出版された「広辞苑第2版」。
かゆ【粥】
水を多くして米をやわらかにたいたもの。かい。→かたがゆかたかゆ【固粥】
固く煮た粥。今の普通の飯。<和名抄十六> ⇔汁粥しるかゆ【汁粥】
広辞苑 第2版(昭和44年5月16日第2版、昭和51年12月1日第2版補訂版第2刷)より
粥⇔固粥
「固粥⇔汁粥」という概念が盛り込まれました。前の第1版ではそれぞれ一対一であった語の定義に関係が生まれた感じがしますね。
ちなみに、1969年はアポロ11号が月面着陸した年です。ビートルズが解散したのが1970年。
広辞苑第3版(1984年)の「かゆ【粥】」の定義
どんどん見ていきましょう!続いて昭和59年、1984年に出版された「広辞苑第3版」。
かゆ【粥】
広辞苑 第3版(昭和59年12月6日第3版1刷)より
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。堅粥と汁粥の総称。かい。<新撰字鏡十二>
かたがゆ【固粥】
固く煮た粥。今の普通の飯。<和名抄十六> ⇔汁粥
しるかゆ【汁粥】
かゆ。⇔固粥
粥の定義に「堅粥と汁粥の総称」という記述が加わりました!かゆの定義の中で登場する「かたがゆ」の「かた」の字が「堅」なっている不思議。あとはほぼ変わりません。
「固粥」の読みが「かたがゆ」になりました。
広辞苑第4版(1991年)の「かゆ【粥】」の定義
1991年に出版された「広辞苑第4版」です。
かゆ【粥】
広辞苑 第4版 1991年11月15日第4版1刷
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。固粥と汁粥の総称。特に、汁粥。かい。<新撰字鏡十二>
かたがゆ【固粥】
固く煮た粥。今の普通の飯。<和名抄十六> ⇔汁粥
しるかゆ【汁粥】
(普通の飯を「かたがゆ」と言ったのに対して)かゆのこと。⇔固粥(かたがゆ)
興味深い変化ですね!粥の定義の中で「粥は特に汁粥を指す」と明言されました。総称というよりは汁粥を指す、現在の感覚にぐっと近づきました。
粥の定義の中の「かたがゆ」の「かた」の字が「固」に戻りました。
そしてもうひとつ、汁粥の定義で気になる変化が。
しるかゆ【汁粥】
広辞苑 第4版 1991年11月15日第4版1刷
(普通の飯を「かたがゆ」と言ったのに対して)かゆのこと。⇔固粥(かたがゆ)
「〜と言うのに対して」ではなく「〜と言ったのに対して」、と過去形。つまり、この時点で固粥という語はもう一般的ではない過去の領域の言葉であるとはっきり示されています。
広辞苑第5版(1998年)の「かゆ【粥】」の定義
1998年に出版された広辞苑第5版。
かゆ【粥】
広辞苑 第5版(1998年11月11日第5版1刷)
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。固粥と汁粥の総称。特に、汁粥。かい。<新撰字鏡十二>
かたがゆ【固粥】
固く煮た粥。今の普通の飯。<和名抄十六> ⇔汁粥
しるかゆ【汁粥】
(普通の飯を「かたがゆ(固粥)」と言ったのに対して)かゆのこと。
少しだけ記述の仕方が変わっただけで、前の版と同じです。
広辞苑第6版(2008年)の「かゆ【粥】」の定義
どんどん行きましょう!2008年の広辞苑第6版。
かゆ【粥】
広辞苑 第6版 2008年1月11日第6版1刷
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。固粥と汁粥の総称。特に、汁粥。かい。<新撰字鏡十二>
かたがゆ【固粥】
固く煮た粥。現在の普通の飯。<和名抄十六> ⇔汁粥
しるかゆ【汁粥】
(普通の飯を「かたがゆ(固粥)」と言ったのに対して)かゆのこと。
こちらもほぼ変化なしです。
広辞苑第7版(2018年)の「かゆ【粥】」の定義
そして、冒頭で紹介した最新の広辞苑第7版。
かゆ【粥】
水を多くして米を柔らかに炊いたもの。固粥と汁粥の総称。特に、汁粥。かい。<新撰字鏡十二>
かたがゆ【固粥】
固く煮た粥。今の普通の飯。かたかゆ。<和名抄十六> ⇔汁粥
しるかゆ【汁粥】(普通の飯を「かたがゆ(固粥)」と言ったのに対して)かゆのこと。
広辞苑 第7版 (2018年1月12日第7版1刷)より
固粥の語義に「かたかゆ」の読みも追加されました。あとはほぼ前の版と同じです。
変化のまとめ
変化をまとめると、以下の通りです。
- 広辞苑第1版(1955年)
・意味自体はほぼ決定
・固粥の読みが「かたかゆ」と表記されている - 広辞苑第2版(1969年)
・「固粥⇔汁粥」という概念が盛り込まれる - 広辞苑第3版(1984年)
・「堅粥と汁粥の総称」という記述が加わる
・固粥の読みが「かたがゆ」になる - 広辞苑第4版(1991年)
・粥の定義の中で「粥は特に汁粥を指す」と示される
・固粥という語はもう一般的ではない過去の語であると示される - 広辞苑第5版(1998年)
・ほぼ変化なし - 広辞苑第6版(2008年)
・ほぼ変化なし - 広辞苑第7版(2018年)
・「かたかゆ」の読みも記述される
一番大きな変化があったように感じるのが、1991年に出版された広辞苑第4版です。「粥といえば汁粥」と示されたことと、「固粥」が古い語であるという記述が加わりました。
【まとめ】広辞苑をたどるっておもしろい!
過去の版をたどる辞書の旅は、小さな変化がとても面白くて、ちょっとしたタイムトラベルのようでした。
大きな図書館に足を運んだら、ぜひ気になる言葉の約70年の変化をたどってみてください。もしかしたら「おっ」という気づきがあるかもしれません。
ちなみに、東京だと広尾の「東京都立図書館」には広辞苑の初版〜第7版まで全て揃っていました◎
近年10年ごとに大きくリニューアルされる『広辞苑』。次の第8版は2028年(?)。
新たな意味が加わるのか、はたまたこのまま安定するのか、これからの「かゆ【粥】」がたのしみです。